フランスのリゾート
フランスは、地中海に面したコート・ダジュールと、山岳と湖のオート・サヴォワという、
海と山の代表的なリゾート地を持っている。
中でもコート・ダジュールの海岸地方の都市と村は、
ヨーロッパのみならず世界の保養地として名をは
せており、そのスケールの大きさとレベルの高さに驚かされた。
コート・ ダジュールは、延長200kmにも上る地中海沿いの海岸線に、
大小26ものリゾート地が連続している所である。
マルセイユから東へツーロン、サントロペ、カンヌ、アンティーブ、ニース、モンテカルロ、
そしてサンレモなどイタリアのリビエラ海岸まで、世界に名を知られたビーチリゾートが続いている。
華やかで、洗練された街と自然である。
コート・ダジュールとは、「紺碧海岸」という意味で、その名の通り、
抜けるような青空と爽やかな紺碧の海に、真っ白の外壁、緑の糸杉、ヤシが輝いて映える。
眩しい太陽に照らし出された光景は色彩がとても鮮やかで、
多くの画家に愛された地というのも納得できる美しさである。
このような地においてその街並と生活にふれて、「リゾート」のあり方について、
日本の現状とのギャップも含めて、考えさせられた点は多い。
従来からの伝統的なリゾート地ばかりでなく、新しい試みがなされているリゾート地もあり、
新旧のリゾート地についてレポートしてみたい。
伝統的リゾート地
コート・ダジュールの伝統的リゾート地はニースに代表される。 ニースは大英帝国の時代に開かれたリゾート地である。 イギリス人たちは「天使の湾」と名づけられた入江に、 幅 100mはあろうかと思われる延長 3.5kmの「プロムナード・デ・ザングレ<イギリス人の遊歩道>」を築き、 波打ち際には丸められた砂利を運び、それを敷きつめて人工の浜辺をつくり上げた。
プロムナード・デ・ザングレをはさんで浜辺の反対側には、大規模な石造の建築物が建ち並び、
ネグレスコ、メリディアンといった有名なホテルが軒を連ねる。
ローマ時代の城壁の遺跡もそのまま建物として再開発しており、
全体としてイタリア色の強い重厚な建物群の迫力に圧倒される。
プロムナード・デ・ザングレに面して開かれたマセナ広場は、
大噴水とアーチ状のモニュメントを中心に配した、ヤシの緑の美しい広場である。
周りをとり囲む大規模な建築群にすこしもひけをとらない第一級の規模と内容であり、
広大な緑地に人々が思い思いに憩うさまは、世界の保養地にふさわしい雰囲気である。
しかし、コート・ダジュールの魅力は、ビーチと高級ホテル、カジノばかりではない。
まず、カンヌの映画祭、モンテカルロ・ラリーといった国際的に有名なイベントが一年中目白押しである。
また、文化の面においても、ピカソ、マチス、シャガール、ゴッホ、
他数え切れないほどの画家たちの足跡がしるされている。
カンヌの近くのサンポール・ド・ヴァンにあるマーグ財団美術館では、思いがけずミロの特別展を見る機会を得た。
シャガールの壁画を建物に使ったハイレベルの美術館で、
このような小さな街でこれほど素晴らしい文化に接することができたことは驚きであった。
ニースにはマチスとシャガール、アンティーブにはピカソといった個人の美術館をはじめ、
主な街には多くの傑作を集めた美術館が揃っている。
またサラド・ニーソワーズ<ニース風サラダ>、ブイヤベースなど、
海の幸をふんだんに盛り込んだグルメメニューとこの地特産のロゼワイン。
食べ物の世界でも一つの文化を確立している。
さらに、リゾートマンションも、アンティーブのマリーナ・レジャンヌを始めとし、
ヨーロピアンスタイルで多様な住み手に対応できる様々なタイプのものが建ち並んでいる。
夏のバカンスの時期には、ニースでは40万人の人口が60万人にまで膨れ上がるそうだ。
人々を引きつけてやまないコート・ダジュールの魅力は、ビーチリゾートとしての顔だけでなく、
公園、美術館、劇場、マーケット、リゾートマンション等、生活と文化のインフラがきちんと整備されている所にあり、
爽やかな地中海性気候の風土と相まって、訪れる人皆に夢と幸福を与えてくれる。
新しいリゾート地
カンヌの南にポールグリモというリゾート型ニュータウンができている。
地元の建築家フランソワ・ スポーリーにより1965年に開発が始まり、
70haの敷地に2100戸の連棟式テラスハウスが建ち並んでいる。
現在第三期分譲が開発中だが、着工する前の計画、設計段階で完売する程の人気である。
その秘密は、ニュータウンの全戸に運河を引き、運河の引けない所は浮島形式とし、
自分の家の庭先にヨットが係留できるという通常では考えられないロケーションにある。
つまり、自分の庭から地中海へ直接クルージングができるのである。
日常生活とリゾートライフが一体となった、まさに「遊感覚」の極めつけの街づくりである。
また、一戸当たりの建築面積は約90平方メートルとさほど大きくなく、
分譲価格も2000万円程度と手頃であり、庶民のためのリゾート地という感が強い街であるのも人気の理由であろう。
街並づくりの点でも、運河に面した庭先や、
埋め立ててつくった浮島の人工地盤の上には豊富な植栽と花を配してリゾートの華やいだ雰囲気を盛り上げている。
建物も、各戸に色彩の変化をつけたブロック積みの外壁とオレンジ色の緩勾配の屋根で、
南欧の香りを強く漂わせており、地方色を活かしたデザインで、周辺環境との調和を図っている。
ロケーションを活かし、各戸に思い思いのヨット、クルーザーを浮かべ(建物よりも船の方が高額かも知れない)、
ゆったりと庭でくつろぐ光景は別世界のようであり、にわかには信じがたい現実であった。
鐘楼の上から望む街並は、あたかもヨットハーバーの中に街があるかのようである。
このリゾート開発は、従来の総合型リゾート開発に対して、
ヨットライフに的を絞ったクラスター型リゾート開発ともいうべき性格のものである。
この他にも、世界中のミモザ<アカシア>を集めた国立公園をつくろうと町長が意気込んでいる街あり、
ナチュラリスト<ヌーディスト>の専用の島あり、様々な街で色々なリゾートが出現しつつある。
このような新しい開発のアイデアを生み出し、実行に移していくパワーが、
この地を常に魅力あるリゾート地として活性化させている源であると感じさせられた。
まとめ
今回訪れたフランスのリゾート地を見ると、フランス人にとってのリゾートとは、 生活全体に渡ってのアメニティを求めているものと感じる。 日本人のイメージする余暇といった、生活の一部分としてのとらえかたとは異なるようだ。 日本では、行楽地は娯楽が求められる中心であるのに対し、コート・ダジュールでは、 遊び(ビーチ、カジノ、スポーツ)、公共(広場、公園)、文化(美術館、劇場)、 生活(マーケット、衣食住)の全てが中途半端でなく、高いレベルで整っていた。 そして何よりも、基本である海そのものがとても綺麗に澄み渡っていた。
こうしたリゾート地のハード・ソフトがインフラとしてあって初めて5週間のバカンスというライフスタイルとマッチングすると感じた。
日本で5週間あればヒマを持て余して、のたうち廻るのが関の山ではなかろうか。
コート・ダジュールならば、毎年でも一ヵ月滞在してみたいものだと本当にそう感じさせられた。
そして、このようなリゾート地の街並づくりからは、
街の魅力づくりのポイントとして「洗練する」ということが、一つの教訓として学びとれる。
コート・ダジュールも、元々は自然が素材として与えられていただけに過ぎないはずである。
そこに魅力ある街をつくりあげようという強い意志と夢を抱いて、洗練していった結果が今日の姿である。
ただ、街の機能として全てを取り揃えることが街の魅力となるのではない。
ポールグリモの人気でもわかるように、その街の持つ個性を最大限に洗練し、
磨いてやることにより、どこにも負けないその街独自の魅力が高められるのである。
中途半端な街並づくりはかえってその街の魅力を消し去ってしまいかねない。
また、 もう一点上げるならば、 これらのリゾート地で街全体に感じた「ワクワク感」も、何とか活かせないものかと思う。
ヨット係留権付タウンハウスとまでは行かないにしても、人々を感動させる「遊感覚のしかけ」は、今の日本にこそ必要なのではないでしょうか。