花の街並づくり運動

 フランスにおける花の街並づくりは1959年から始まった。意外に浅い歴史である。 31年前にフランス観光省の呼びかけで600の市町村が参加して始められた花の街並づくりの運動は、 その後1972年になって半官半民のCNFF<フランスを花で飾ろう委員会>の下、 7000自治体の参加する運動に発展し、そして現在では、 全国の25%にあたる8000もの自治体が参加する一大運動となって定着している。 その基本理念は、

 1.フランスをもってヨーロッパの花の庭にする。
 2.花でお客様に最大の歓迎をする。

というものである。 運動に参加している多くの街では、 観光地の魅力づけとしての街の活性化効果を狙っている面も多分に感じられるが、 実際に、花の生活環境に及ぼす改善効果を見ると、 文句なしに素晴らしい運動だと感心させられる。 さらに、花の街並づくりを推進する中で、街の人々のコミュニケーション、 或いは、街と街との相互交流も活発に行われてくるようになってきたとのことである。 つまりは、街の活性化にも大きな役割を果たしているといえる。 また、運動の推進体制からいえば、行政主導型で積極的な花の街並づくりが行われているのがフランスの特徴といえる。

<イボアール/花の街並>

 この運動は周辺諸国にも当然波及した。 イギリスでは1974年にBBC<ビューティフル・ ブリテン>運動が発足し、 現在工業都市も含めて700もの治体が参加する運動となっている。 イギリスでは、フランスと対照的に園芸団体等の民活主導(スポンサーシップ)とのことである。 他のEC諸国にもいろんな形でこの運動は拡がり、 その結果1975年から花の街並づくりの国際フラワーコンクールが発足した。
 花で国際親善を図ろうという目的のもとに集まったフランス、イギリス、スイス、ベルギー、 他7ケ国で始められた国際コンクールには、現在は国際園芸家協会に参加の国は全てエントリー資格を有するようになっている。 もちろん日本もその中に含まれている。やはりフランスがコンクールにおいては群を抜いており、 3段階の国内選抜を経て選出された国際エントリーの街は、常に成績の上位を占めている。 そして、フランスにおいて過去のコンクールで上位入賞の街には、 フランス政府から「四つ花」の格付けを贈られている。

 今回訪れたフランスのイボアール、アヌシー、シャティヨン・シュル・シャラロンヌなどは、 いずれも過去にフラワーコンクールで優秀な成績を上げ、 コンクールエントリーの除外地となって代わりに四つ花の格付けをされている街である。 イボアールの報告写真にあるように、四つ花の街は入口に四つ花の表示の権利を有する。 四つ花の看板は、街の誇りを示すと共に観光面で大きなPRの効果を発揮する。

 特に私の印象に残った代表的な花の街並づくりの例として、小規模な街ながら、 花の密度ではズバ抜けているイボアール(フランス)と、一般的な街の規模で、 公共の場所を中心に効率良く街の美化を推進しているシャティヨン・シュル・シャラロンヌ(フランス)を取り上げる。


 イボアール(YVOIRE)

 イボアール(フランス)は中世から続く漁村だったが、 1960年代に花の飾り付けをするようになってからは、 レマン湖畔で最も美しい村として観光の村に変貌を遂げている。 中世特有の石積みの建物に花の鮮やかなドレスアップが強烈な印象を与えてくれる。

<イボアール/建物と花飾り>

 それを実現しているベースとして行政は450万フランの年間予算の内、 実に15 %を花と緑の保全に投入している。住民1人当たり約5万円になり、驚くべき数 字である。

 しかしこの街の花のボリュームは、年間数万円の行政の投資だけで維持されているとはとうてい思えない。 フラリ入ったアートショップで「自分の庭を見ていかないか?」との誘いの声。 皆、自分たちの環境に誇りを持って生活しているように見受けられる。 行政の働きかけが呼び水となって、今や住民自体の自律作用で花の街並が積極的につくり上げられている。 行政と住民の街づくり意識が完全に一致しているのは素晴らしいことである。 しかも四つ花の格付けは、一旦取得しても毎年維持の努力を怠れば格落ちされると言われ(三つ花、二つ花)、 単に街づくりの時だけでなく、維持にお金と手間をかける成熟した街づくり意識が育っているといえる。 人口僅か 450人という少人数の街であるということと、 観光による経済発展効果の恩恵が大きいだろうということの特殊性はあるものの、 このような環境に生活できる彼らが実にうらやましく思えた。


 シャティヨン・シュル・シャラロンヌ(CHATILLON-SUL-CHALARONNE)

 シャティヨン・シュル・シャラロンヌ(フランス)も人口4000人の小さな村だが、 アン県の副県庁所在地として古い歴史を持っている。 1965年に四つ花の格付けを得ており、現在フランスに60ある四つ花の街の中の先駆的な街でもある。 街の入口道路にとてもきれいなプラタナスの並木道を配して、 街中にも公共の場所を中心にプランター、花壇、花車等の飾り付けを施している。

<シャティヨン/水門と花飾り>

 イボアールと異なり街の規模が大きいため、各戸すべての窓辺に花というわけにはいかないが、 ポイントを押さえた投資は見事である。 ここも観光客対策の一つとして花の街並づくりが活発化したもので、 街中を流れる川も恰好の見所として水門、橋の欄干、川の中の浮島などを花でショーアップしている。 また街の中を回遊できるようにグランドレベルの改造をしたり、 街の各所の案内看板のデザインをシックに統一したり、 街そのものの整備も併せて推進している。 花と相まって、とても綺麗な街との印象を強く与えてくれる。

 花の購入にかけるコストは年間200万フラン(市予算の2.5 %)で、 住民一人あたり約1.5万円/年の投資である。 メインの通りに重点的に並べられたプランター、フラワーボックス。 橋の欄干にしっかり取りつくように設計された専用のプランター。 アイビー系のボリューム感あふれる花使いなど、街のショーアップのすべてが、 今回視察した街の中で最高のレベルにあった。 訪れた季節も最高の時であり、 本物の花の美しさを教えてくれた街として忘れ得ぬものとなった。


 まとめ

 この二つの街並づくりは、先に述べた花の街並づくりの基本理念を見事に具現化している。 そして私が感じた花の街並づくりの成功の鍵は、行政の一方的な環境美化でなく、 住み手に対してもう一歩踏み込んだ、花の街並づくりへの理解と共感を得る努力にあると結論づけられる。 住み手が自らの街の良さをほんとうに理解し、自らもその価値の維持のために、 共に行動していくことによって初めて、住み手が誇りと愛着の持てる活き活きとした街、 すなわち「居心地の良い」街が実現される。 そして、そのような街の雰囲気が、訪れる人にもアメニティを感じさせてくれるのではないでしょうか。